さとうきびは大きくなると3m以上になります。
自身を支える茎は、繊維質の記事でもお伝えしたように釣竿のようにとても丈夫でしなやかにできているので、大きくなっても風には一定の耐性があります。
多少の風で揺れてもポキッと折れることはないですし、複数の分身でお互いを支え合うことで、しなることはあっても倒れることはありません。
ですが、断続的な強風や突風、台風となるとさすがに事情は変わってきます。
風に強くあおられると当然負荷がかかりますし、傾いてしまえば起き上がるのにも力がいります。特に大きくなってから傾いたりダメージを負ってしまうと、溜め込んだせっかくの糖分が回復のために使われ、糖度も下がってしまいます。
葉っぱはさすがに繊維質がいっぱいでも薄くて長いのでぱたんと折れ曲がるため、大事な光合成にも悪影響です。
いくら丈夫なさとうきびでも、やっぱり強風や台風はつらいのです。
適度な風が心地よいのです。
ここ静岡県浜松市でさとうきびを育み始めた初年度は、支柱も紐もせずそのままの状態でした。
ちょうど10月にさしかかり、成長もmaxというタイミングで台風が接近。ギリギリのところでそれたものの、通過時の北西風が明け方にかけて吹き抜けた影響で、見事に1/3ほど傾いてしまいました。台風の目の西側で、そこまで風は強くなかったのに。
とはいっても沖縄の倒れ方に比べたらまだまだかわいいものだと気を取り直し、急いで支柱と紐を購入。傾いたさとうきびをすぐに立て直したため、事なきを得ました。
倒れることの最終的なリスクと自分自身の精神衛生を考えた結果、2年目からは、台風が来そうな時を見計らって渋々支柱と紐で支えることにしています。
適度にバランスよく、絶妙に茎の間隔を保ちながら、おもむくままにすーっと真上に伸びているさとうきび。見るからに気持ちよさそうなのでできればそのままの状態にしておきたいのですが、仕方ありません。
紐がけを決行するときはいつだって、さとうきびごめんなさいという気持ちでいっぱいなのです。
長い台風シーズンがようやく終わってほっとするころになると、今度は遠州のからっ風が北西から吹き始めます。
この遠州のからっ風、まったくもってあなどれません。浜松で生きるありとあらゆる生命体にとって、もはや冬の脅威ともいえます。
特にさとうきびは巨体中の巨体。風をまともに受けてしまいます。
常時からっ風にさらされれば、ほぼ100%南東側に傾き、ときには頑丈な紐でさえも摩擦とさとうきびの重みで千切れてしまうほど。
北西側のレーンのさとうきびにはたいへん申し訳ないのですが、ほかのさとうきびの風除けとなってもらっています。
実際、ここ浜松では、さとうきびを食用ではなく防風林の代わりに植えているかたもいらっしゃいます。
ある程度の風は空気の通りも良くなるので大歓迎ですが、さすがに限度があります。からっ風で乾燥した裸地の畑の砂埃をみると、まるで砂漠のようです。
さて、12月の収穫最盛期にもなると、気温もぐっと下がり、一段とからっ風もつよくなります。さとうきびにとっても厳しい環境である一方で、わたしたちも凍てつく寒さの中での作業となります。静岡県はたしかに温暖ですが、このからっ風のせいで体感温度はかなり低く感じられます。
このからっ風の中、ようやくさとうきびの刈り取りが終わると、息つく間もなく今度は別の問題に対処しなければなりません。収穫の際にはぎとったさとうきびの枯れ草が畑にたくさん残っているので、早めに片付けないとからっ風で全てふきとんでしまいます。量もたくさんあるので処理がとにかく大変なのです。
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今日も畑で風にあおられ続けていたさとうきび。
かれらのためにも、もう少し風の穏やかなところで育ててみたい、そんな願望をつよく胸に抱きながらさとうきびを眺めております。
台風と遠州のからっ風。
残念ながら、これからも長いお付き合いとなりそうです。