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浜松とさとうきび

さとうきびは、沖縄や鹿児島の人たちにはなじみ深くても、そうではない人たちには縁遠い存在かもしれません。
お砂糖は身近ですが、原材料のさとうきびは見る機会も少ないですし、頭に浮かぶこともあまりないのではないでしょうか。

ここからは、南国がイメージのさとうきびにまつわる、浜松での個人的な体験をお話しいたします。

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およそ5年前、さとうきびに興味をもち、いちから育ててみることにしました。


場所は、産地の沖縄や鹿児島の離島ではなく、しばらく暮らしていた地元の浜松でもなく、本州のどこか、暖かくてさとうきびと共に暮らせそうな、縁もゆかりもない全くの新天地にしようかなと思っていました。

浜松でさとうきびを育てるイメージがどうしてもわかなかったのです。

浜松以外のどこか、さとうきびにとっても自分にとっても心地良さそうな場所を探し求め、あちこち足を運ぶ日々。

ピンとくる場所がきっとどこかにあるはずだと思っていたのですが、その読みは外れ、なかなか見つからないまま月日は過ぎていきました

そんなある日の午後、浜松市内をたまたま散策していた私は、偶然、視線の先のあるものに目がいきました。


えっ??…あれは、なに???



驚きのままに近寄ってみると、それはまぎれもなくさとうきびでした。
あのさとうきびが、畑の一角に数本生えていたのです。


浜松に、さとうきび

驚いたのも無理はありません。

なぜなら、いままでただの一度も浜松でさとうきびを見たことはなかったし、さとうきびにまつわる話すら耳にしたことがなかったからです。

もちろん、育てると決めたときは浜松でも育つだろうとは思っていましたが、まさか実際に存在しているだなんて夢にも思っていませんでした。

いや、もしかしたら幾度となくすれちがってはいたけれど、それをさとうきびだと全く認識していなかっただけなのかもしれません。

自分が意識していないもの、認識していないものは、存在していないのと同じで、目にも止まっていなかった可能性はあります。

それにしても、地元である浜松で、このタイミングでさとうきびとご対面だなんて、縁のようななにかを勝手に感じてしまいました。


あれほど浜松から出ようと意気込んでいたわたしですが、さとうきびを見つけてしまったこの出来事で、決意がかたまりました。
こんなにすぐそばにいたのだから、とりあえず、浜松で育ててみようと。


生まれてからずっと、さとうきびの存在に気づけなかったこの地で育てる意義を見つけた気にもなりました。もしかしたら、そう思いたかっただけなのかもしれません。

実際に浜松で畑をお借りして育て始めると、予想外にたくさんの人にお声がけいただきました。
主に60代から80代くらいのかたたちでしょうか。
まとまってわさわさしているさとうきびがよほど目立っていたのでしょう。


「ひょっとしてさとうきび?」から始まって、懐かしそうに思い出話をしてくれます。
さとうきびは子供の頃のおやつ代わりだったそうです。生えているさとうきびをこうしてポキッと折ってかじっていたんだよって。


いろいろな方の話によると、南の浜に近い一部の地区では、小規模ながら、さとうきびからお砂糖を実際につくっていたらしいです。さとうきびを圧搾するときに牛の力を借りていたとかいないとか。


さとうきびは勝手に遠い存在だと思いこんでいましたが、わたしの上の世代のかたたちにとっては、幼少期を思い出すとてもなじみ深い存在だったのです。生の声を聞いて初めて知ることとなりました。まさに二度目の驚きで
す。

甘いさとうきびをかじっておやつ代わり。さとうきびを搾ってお砂糖作り。

さとうきびの思い出話を耳にすると、あらためて時代の移り変わりの早さを感じます。ほんの数十年前の話だとは思えません。
食をとりまく世界は、驚くほどのスピードで一変してしまったようです。
食の豊かさと引き換えに、何か大切なものを置き去りにしているような、そんな感覚に陥りそうになります。



いずれにせよ、さとうきびはどんなかたちであれ、いまも私たちの暮らしを支えているかけがえのない存在には変わりありません。

もしかしたら、あなたも気づいていないだけで、あなたのすぐそばで、さとうきびは甘さを秘めて今日も風に吹かれているのかもしれません。