さとうきびは丈夫で逞しいけれど、中身はとても繊細

今年、試験的に株出し(収穫した後の根株から発芽させる方法)を採用しました。

春をむかえ、2ヶ月以上経っても芽が出てこない、もしくはほんの少ししか出てこない株があったので見切りをつけ、せっせと掘り出し、乾燥させるためにそのまましばらく放置しておきました。

もうこれ以上どうなるものでもないと思っていましたが、さとうきびはやっぱり逞しい。根株の下、土とほんのわずかに接しているところから密かに新根をはり、命をつないでいたのです。


そして、しっかりと活着。少しずつではありますが、彼らなりのペースで現在も成長をつづけております。

株は、土の中ではなく外にむき出しなのになんという逞しさ、いや、しぶとさでしょうか。ただでさえ乾燥気味の畑なのに…。
これ以上生えてこないだろうと早々に諦めて掘り出してしまい、大変失礼しました。

さとうきびは確かに見た目は逞しい。全く疑いようもありません。


でも実は、さとうきびの内部はしっかりと外部環境の影響を受けて、性質を微妙に変えながら適応しています。さとうきび自らの生理的プロセスで変わることもあれば、微生物が勝手に性質を変えてしまうこともあります。

ストレスを受けていることを感じさせない逞しさと生命力を外見では見せておいて、中身は非常に繊細です。この繊細さは、さとうきびをただ育てているだけなら何の問題もありません。


さとうきびの中身をそのままいただく黒糖などの含蜜糖をつくるとき、その繊細さに手を焼く羽目になるのです。
たとえ見ためは同じように見えても、この繊細さの程度は個々で異なるため、最終的なお砂糖の仕上がりに大きく影響を与えてしまいます。


風味、色味、テクスチャ、食感、結晶の強さ、などなど。

単にさとうきびを育むことと、その先のお砂糖つくりまでを見越したうえでさとうきびを育むこととでは、全く別の視点が必要なのです。


さとうきびは、かなり丈夫で逞しいので外見と中身のギャップを特に感じやすいのですが、このような成分差異は、なにもさとうきびに限ったことではありません。野菜や果物にだって、成分差異からくる味の個体差はあります。


さとうきびが内側でうまく調整してバランスを保てば問題ありませんが、調整がちょっとずつ効かなくなって、積もり積もってなんらかのかたちで外見に現れてしまったとしたら、すでにかなり深刻な状態なのかもしれません。

見た目ももちろん気にかけてあげなければなりませんが、中身は目には見えず、なかなか異変に気づいてあげられないもの。年に一回のお砂糖つくりで、その年のさとうきびの状態が初めてわかるなんてこともあります。

さとうきびの内面は、見た目からは信じられないほど、繊細で感受性が豊かなのです。