さとうきびと虫、今年は平和な共存

※この記事には虫の画像は一切ありません。虫嫌いな人も安心してお読みください。


農業では、虫による食害を最小限にすることは、高い品質と収量確保のためにも非常に大切な要素です。
特に、農薬や消毒を使用しない育てかたを実践している農家にとっては、最初に直面する課題のひとつでもあります。

日本のような高温多湿な環境は、虫にとっては好環境。孵化と成長が促進されます。餌も水源も豊富なのでより活発になり、病気やウイルスも拡散されやすくなります。

虫がこれほどたくさん生息している環境のなかで作物を育てたら、食害に合うことはある意味自然なこと。
そうはいっても、特定の害を与える虫が畑内で繁殖してしまうと被害も計り知れないので、いくらかは許容したうえで、被害を拡大させない努力が必要となります。

虫とのかかわりかた

2019年からさとうきび栽培を始めるにあたり、ひとりで試行錯誤しながら実践で学んでいきました。
そのため、最初はひさびさに対峙する数々の虫をまえに、さとうきびに害を与える虫なのかどうかの区別さえもわからず、ただただ気持ち悪さに怯えたり悲鳴をあげたり。

そうこうしながら、さとうきびを通してなんとか実験と観察を続けること数年。虫の存在にもだいぶ慣れて、ある程度の免疫がつきました。


また、品質に影響を及ぼすほどの食害をする憎き虫はいまのところ1~2種類。
肥料の与えかただけでも、被害の程度が違うことも自分なりにわかってきました。

総じて、さとうきびにとってほとんどの虫が無害であることに気づいた今となっては、しっかりと共存という道を歩んでいます。特定の虫だけは繁殖しないよう注意を払いつつ。

虫と共存ということは、それを捕食する虫以外の生きものも受け入れなければなりません。
たとえば、モグラが大暴れして悩ましく思えても、土中の幼虫を食べてくれるので、さとうきびに直接のダメージが見られない限りは受け入れようという心持ちでいます

今年の食害虫の状況

自分なりに虫とのかかわりかたが定まってきた2023年度は、肥料の量や質、タイミングをさらに見直したうえで、株出しという栽培方法や枯れ草マルチなど新しい試みも合わせて行いました。

その影響も一部あったからなのか、今年は全体的にみて、虫の被害が驚くほど少ない結果となりました。

正確にいうと、畑内にあった枯れ草が、虫たちの冬の寒さを凌ぐ隠れ蓑になって越冬に成功したおかげで、春先はいつも以上に虫の生態系が豊かでした。
さとうきびの成長初期段階では、いままでにはなかった葉っぱの食害も目立ったので、今年はいったいどうなることかとかなり警戒していたのです。

ところがしばらくすると、葉っぱの食害はぴたっと収まりました。そしていつもなら特定の虫による食害が確認できる時期になっても、いっこうにその害が見当たりません。
急に涼しくなってきたいまごろになってようやく少し確認できた程度です。ひょっとして暑すぎて活動が鈍っていたのでしょうか。


もちろん被害がないことは喜ばしいのですが、むしろ一体なにがあったのか気になって仕方ありません。原因がわからないことには今後に活かしようもありません。
そこで、わたしなりにあれこれ考えてみました。

今年の食害虫が少なかった原因

  • 枯れ草を敷いたことで天敵がいつもより多く存在した。
  • 飛来時期の気象条件がよくなかった。雨の降りかたや早い時期から長く続いた酷暑など。
  • 株出しをしたことでさとうきびの成長スピードがいつもと違っていたためタイミングがずれた。
  • 今年のさとうきびは、虫にとってはいつもの魅力がなかった。
  • 個体数自体が今年は少なかった。(もともとの成長サイクルによるものか、酷暑で孵化や成長ができなかったか。
  • 肥料の質や量、タイミングがよかった。
  • さとうきびが健康だった。
  • たまたま。


ざっと考えただけでもこれだけあります。どうやら複数の要因が影響を与えているようです。

食害が少ないメリット

いずれにしても、さとうきびの食害がほとんどないことは、何があったにせよ素直に喜ばしいことです。
労力も減るし品質の向上にも大いに繋がります。食害にあったさとうきびは、見つけ次第全て処分しているので、被害がなかった分、収量も確保できます。

なにより、農薬などの薬剤を使わずにずっと育てることができるのは、一つの安心材料ではないかと思っています。環境や生態系に与える影響も大きいです。


関係者に聞いたところによると、沖縄県や鹿児島県の離島では、年中温暖で栽培規模もケタが違うので、農薬不使用で栽培をすることは非常に難しいとのことでした。


確かに、年中温暖なら虫もずっと活動できるし、地域での作物が単一であればあるほどそれを好む特定の虫が繁殖しやすいことは容易に想像できます。
ここでの食害の少なさは、そういった環境の違いも影響しているのかもしれません。

全てをコントロールするなど到底できませんが、さとうきびが気持ちよく育つためにできることを日々実践しながら、引き続き上質なさとうきびを提供できるよう慎重に対応していきたいなと改めて感じました。

まとめ

静岡県沿岸部でのさとうきび栽培は、沖縄県や鹿児島県の離島などと比較して虫の被害が少ないため、工夫をすれば農薬を使わずに済みます。これはかなり大きなメリットともいえるのではないでしょうか。
また、今年のように食害も少なく虫と平和に共存ができれば、それにこしたことはありません。

新たな虫の被害に悩まされることが今後あるかもしれませんが、最善の方法を模索してなんとか乗り越えていけたらよいなと思っています。