さとうきびが大型な植物なのは広く知られていますが、いったいどのような過程を経て、どのくらいのスピードで成長するのかは、意外と知られていないかもしれません。
最終的には3m以上にもなるさとうきび。
3mというからには、初期の段階からスタートダッシュでぐんぐん成長していくイメージがありますが、実際はびっくりするほどゆっくり、のんびりの、スロースターターなのです。
他の植物も、初期成長はおそく徐々に加速しながらある起点で一気に急成長し、最終的には成長が緩やかになって落ち着くロジスティック曲線と呼ばれる成長過程が一般的です。
植物の成長に限らず、人口推移や経済成長、個体数の変化なども、このロジスティック曲線にあてはまるとされています。
さとうきびの特徴は、ある段階からの驚異的な成長スピードと背丈にあります。大型で、上にまっすぐ伸びていくさとうきびは、成長差が顕著でとにかく目立ちます。
さとうきびの成長過程
さとうきびの成長は、大きく分けて以下の5つの段階に分類されます。
発芽期幼苗期分蘖期成長期成熟期
この成長サイクルは、環境条件や栽培方法により多少異なりますが、産地では通常12~18か月、ここ静岡県ではおよそ8〜9ヶ月です。他地域よりももっと短い期間で目覚ましい成長過程を見届けることとなります。
1.発芽期
さとうきびの苗の植え付けは、茎の一部を切り取って土に植える「挿し木」のような方法で行われます。発芽期とは、苗にした茎の節目から根を出し、芽を出すまでの期間です。
発芽には2~4週間かかることが多いです。この期間は茎苗が枯れないよう定期的に水やりをして発芽の時を待ち続けます。
発芽は、品種はもちろん外気温にも大きく左右されます。春先の、まだ肌寒い時期の発芽を促進するために、ビニールマルチなどをして温かくしている地域も一部あるようです。
わたしたちは、ビニールなどの資材はなるべく使いたくないのと、なるべく彼らが環境に適応する自然の力と姿を見守りたいという理由から、いまのところ水やり以外は何もしていません。
2.幼苗期
発芽したばかりのさとうきびは、非常にゆっくりと成長を開始します。
一枚一枚葉っぱを長く伸ばしながら、新葉も慎重に生やしていきます。この時期は、茎の成長よりも根と葉っぱを増やすことに専念します。幼苗期の後半は次の成長ステージである分蘖初期と重なります。これらを含めるとおよそ2~3か月、続きます。
3.分蘖(けつ)期
※俯瞰で見た分蘖の様子
分蘖期についてはこちらの記事にも書いてあります。
分蘖期に入り、分蘖が盛んになってくると、茎数も増えるため葉っぱもわさわさと生い茂っていきます。茎の成長も徐々に早くなっていきます。ちょうどこの時期が梅雨と重なるおかげで、ようやくスイッチが入るようです。まさに恵みの雨。
雨上がりに畑を訪れるたびにひと回り大きくなっているさとうきび。初期ののんびりした成長とは対照的なので、余計に際立って見えます。
4.成長期
梅雨が終わるころ、分蘖期を終えて基礎作りと全ての準備が整うと、今度は急速に茎が伸長し始めます。ぐんぐん背丈を伸ばしながら茎も下から太くなっていきます。
そして3ヶ月後の9月には3m!
この時期の伸長は1日でおよそ1〜3cm。3cmだとすると3cm×90日=270cm。確かに3ヶ月で約3mです。
この期間中、真夏の太陽の光で光合成を盛んに行い、糖分も同時に蓄積しながら成長の糧とし、あのおなじみの大きなさとうきびへと変貌していきます。
分蘖期までは品種によって成長に差がありますが、この頃になると差はほぼなくなっています。
5.登熟期
9月を過ぎて10月に入るころになると成長が鈍化し、登熟期に入ります。乾燥と適度の寒暖差で茎の内部に糖分を着々と蓄積。
登熟が最高になる11月の中旬から12月上旬、いよいよ収穫のときをむかえます。
考察
さとうきびにいつも感嘆するのは、やっぱりその強靭な生命力。
30cmほどの茎の苗には、芽は2つしかついていません。2芽苗といいます。この2つの小さな芽が、8ヶ月後には3mを超えるほどに大きくなるなんて、そんじょそこらの植物とはちょっとパワーが違います。
スイッチが入った後の成長スピードは、毎年のことなれど、まさに圧巻です。
もちろん生育差はありますが、どのさとうきびも最後には必ずたくましい勇姿をわたしたちに見せつけてくれるのです。
さとうきびを見ていると、何かを成し得るための日々の学習や体力つくりも、下積みや試行錯誤も、次のステージの飛躍につながる可能性を十分に秘めているんだなと思えます。
だから、まだゴールがみえなくても、今行っているあらゆる取り組みは、次の成長や成果のための基礎づくりだと信じて突き進めばよいのだとも感じさせてくれます。
そんなさとうきびのパワーは、私たちのお砂糖の風味にもしっかりと生きています。