
今年度は、さとうきびの株の入れ替えを3年ぶりに行い、全ての苗の植え付けを終えて約一ヶ月が経ちました。
例年よりも3月後半寒い日が続いたため、4月に入ってからの植え付けとなり、発芽も遅れてましたが、ここ最近の雨と晴れの交互の天気のおかげでようやく無事に出揃ったところです。

実は今回、苗の保管方法を大きく変える実験を試みたのですが、いろいろと問題があって、予定の1/3程しか確保できず。急遽、苗を必要本数分、産地の研究機関から取り寄せることにしました。
担当の方と諸々やり取りしたのち、なんとか植え付け時期の期限までに発送していただいたのですが、ここで思いもよらないハプニングに見舞われたのです。
梱包された苗を開封し、苗を適切な長さにカットする調苗の作業にとりかかろうと、まずは一本ずつ状態を確認していったのですが…。
なんだか、良くない。
1本につき3〜4本の苗がとれると記載があったのに、せいぜいよくて2本がいいところ。
その分、本数は多めに入れてくれたようなのですが、虫食いがやたらに多いわ、苗にするにはあまりにも細すぎるわ、芽も潰れていたり機能していないものも多いわで、使える苗、一体どれだけあるの状態だったのです。
さとうきびの苗は、実際にカットしたり葉をはがしたりしないと、虫食いや芽の状態まではわからない部分も多いので、多少の不良は承知しています。
でも、それにしたって多すぎる。
葉っぱを剥ぐ前から虫食いだとあきらかにわかるレベルのものも平気であります。苗の細さに限っては論外です。

※上は標準の苗。下が送られてきた極細の苗。

※葉を剥がなくてもわかる虫食いの痕
あまりのひどさに、もしやいやがらせ?それとも軽んじられてる?と思ってしまうほど。作業をしながらどんどん気が滅入っていきました。
とどめとして、こちらではみない小さな虫が生きたまま潜んでいて、這って何匹か出てくる始末。しばらくの間、手が止まってしまいました。
わたしがふだん、苗用にわざわざ保管する際は、とりわけ健康で茎も太い状態のさとうきびを選別しますし、虫食いのものは変色してダメージを受けているので当然使いません。
ふつふつと込み上げてくるやりきれない気持ち。それでもなんとか気持ちを落ち着かせて、作業を進めました。
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結局、送られてきた苗のうち、1/3が虫食い、1/3が極細の苗。
極細を許容したとしても必要な本数を用意することができませんでした。
足りない分はどうにか植付レーンを調整するしかなさそうです。仕方ないなと割り切り、片付けと植え付けの準備を終え、いったん作業場から離れました。
でも、でもです。
もやもやが消えません。
なんとか気持ちはおさめたはずなのに。
もはや怒りとかやるせなさを通り越して、どうしてこのような苗が送られてきたのか、純粋に理由が知りたくなってきました。
だって、産地の研究機関です。
信頼に値する肩書きですし、そのようなところから、こんな苗がわざわざ選別されて送られてくるなんて、にわかに信じたくはありません。
無料でおこぼれをいただいているわけでもなく、有償で、正式に契約まで交わしているのですから。

実践の場に立つ身として、やっぱり状況と理由をひとまずきいてみよう。自分を納得させるのはそのあとでいい、と判断し、意を決して連絡してみることにしたのです。
担当の方は、とっても朴訥な感じの方でした。わたしは、なるべく角が立たないように事情を説明し、どのような状況と判断のもとで苗を選別したのか、率直に確認してみました。
お互いにとって、決して気持ちの良いやり取りではありません。そんなことは百も承知で、ひとつひとつぽつりぽつりとつぶやく言葉を汲みとり、理解しようと努めました。
さて、その方の回答をざっくりまとめると、
1.時期的なこともあり、あまり状態の良くない苗も混ぜている自覚はあったが、その分多めに入れていたので問題ないと思った。
2.虫食いは検品の際にできるだけ避けたつもりでいた。
3.極細の苗に関しては、苗の品質としては特に問題ないと判断した。
とのことでした。
なるほど。
問題ないと判断したということは、意識の向け方と苗の品質に対する認識の違いなので、もはや見えている景色が違います。本人に悪気はなく、これで正しいと判断しての結果です。
もはや仕方ないな、と感じました。やむを得ない深い事情があったわけでもありませんでした。
在庫の確認を2日程待ったのち、無いとのことで代替案をご提示くださり、ひとまず今回の苗騒動は幕を閉じました。

届いた苗には正直ガッカリしましたし、このような不具合を伝えることもできればしたくはなかったです。とはいえ、今回抱いた、いっときの不信感(それ以外の対応はとても丁寧でした)は、結果的にいろいろなことを考える良いきっかけにもなりました。
まず第一に痛感したのは、自分の備えの甘さ。苗は、次の世代につなぐ大事な生命そのものなのに、保管方法を変えるという選択に対し、気持ちや労力の問題からリスクヘッジを怠りました。いつもなら、慎重すぎるくらい気を配れるのに、気の緩みがあった事実は否めません。
今回は、さとうきびの驚異的な生命力に大いに助けられましたが、それにしても、本当にこの条件下で生きながらえていてくれて、頭が下がる思いです。
この出来事を自分事に置き換えてみると、もしかしたら、こちらのいたらなさや認識の甘さで、同じような気持ちにさせてしまった方がいたのかもしれません。そう思うと、人のふり見て我がふり直せではないですが、他人事じゃない、あらためて気が引き締まる思いになりました。

産地の研究機関だから間違いはないだろうと、無意識に信頼していました。
専門の研究室です。わたしよりもはるかに実績も経験も知識も豊富なはず。まさかがっかりするほどの苗を送るわけがないと。
産地や肩書きは、品質や信頼を図るうえで大事な指標かもしれません。でもそれは、あくまでも価値基準のひとつに過ぎず、ちょっとしたアドバンテージのようなもの。
実際は、携わる人の姿勢や意識が宿って初めて、ブランドや品質は担保される。
どんな人が高い意識と責任、誇りを持って関わっているのか、この点がもしかしたら何よりも大事なのではないかと感じました。
前回送られてきた時には、特に問題がなかったのが何よりの証拠です。研究室の体制や選別における基準やマニュアルがどうだったのかはわかりませんが、少なくとも、明らかな差があったのだから。
産地や肩書きをまえに、すっぽりこの当たり前の意識が抜けがちです。
普段そういう肩書きにはあまり目がくらまないわたしでさえも、疑いもなく期待してしまっていたのです。

信頼は、産地や肩書き、実績だけで成り立つのではなく、一回ごとの関わりの中で更新されます。
だからこそ、自分もまた、商品を売る立場であり、期待してもらえる側であることを常に忘れずにいたいと思いました。
一度信頼を得たからといって、それが永続するわけではない。日々の仕事の中で、小さなやりとりの中で、その都度、自分の誠実さが問われているのだと。
最後に、もうひとつだけ。
今回送られてきた苗と自分の手で育てた苗を並べてみたとき、いままで自分の手で育てたさとうきびが、どれほど健康で状態のよいものであったのか、あらためて気づきました。
これでよいのか、間違っていないか、不安に思うときもあるなかで、もっと自分の育て方に自信と誇りを持っていいんだよと、そっと背中を押されたような、そんな気もしています。