さとうきびは、なぜスーパーの棚に並んでいないのか

さとうきびがスーパーで食用として売られていたら、購入するでしょうか。

さとうきびの食べ方としては、皮をナイフでむいてかじるか、搾ってジュースとして味わうかのどちらかです。
繊維質が多いため、歯でかみながら甘い汁だけを吸います。味は、スイカのようなやさしい甘みです。

でも残念ながら、野菜や果物のようにさとうきびがスーパーの棚に並んでいる姿は一般的ではありません。
なぜなのでしょうか。

まず、さとうきびは収穫後非常に酸化しやすい性質を持っています。茎の切断面が空気にさらされると、酸化が進んで色や風味が変わり、早い段階で劣化してしまいます。
さらに、20%近くの高い糖分と80%近くの水分を含むため、カビや細菌が繁殖しやすく、発酵や腐敗もおきやすいのです。

これらの理由から、さとうきびは、そのままでは食用としてまったく日持ちしません。

また、さとうきびの産地は限られており、収穫後すぐにスーパーに並べることが難しいという現実もあります。
加えて、さとうきびはそのままだと重量があってかさばるため、輸送のコストもかかります。さとうきびを新鮮な状態で消費者に届けるのは非常に大変なのです。

果物も糖分と水分が多く、いたみやすいという点ではさとうきびと共通の性質がありますが、果物は通常、表皮にしっかりと包まれているため、酸化や微生物の影響をすぐには受けにくいという利点があります。

ブドウやみかん、メロンやスイカ、バナナもりんごもみんな、中身は露出していません。パイナップルだって固い表皮に包まれています。

一方で、さとうきびは収穫の際に茎をどうしてもカットしなければなりません。カットすることなく収穫ができれば、果物のようにおそらくもう少しは保存ができたはず。

さとうきびから白いお砂糖を作る際も、収穫から24時間以内に製糖工場への搬入が推奨されているほどです。
わたしたちがお砂糖をつくるときも、必要な分だけを収穫して、数時間以内で火にかけ終えます。黒糖などの含蜜糖は特に、鮮度が命です。

ちなみに、静岡県では、収穫時期はちょうど気温も低くなり空気も乾燥する11〜12月。この時期がさとうきびの旬となります。微生物の活動もかなり抑制される季節にちょうど糖度もマックスとなるので、収穫にも加工にも最適といえます。

その代わり、収穫時期はかなり限られてしまうため、分散して収穫ができないのがデメリットとなります。

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かつては、さとうきびが育つ地域に住む人たちだけで新鮮なさとうきびをかじって楽しんでいました。しかし次第にどうにかしてもっと長持ちさせたいという欲求が芽生え、搾った液体を煮詰めて水分を飛ばした黒糖のようなお砂糖が発明されたのでしょう。

これにより保存性が著しく向上し、持ち運びも可能になりました。お砂糖を作った人たちは、保存もきくし、持ち運べるし、最高だ!と歓喜に沸いたに違いありません。

こうしてさとうきびは、さとうきびとしてではなく、日持ちのするお砂糖に姿を変え、世界中に広まっていったのです。
この時点で、さとうきびそのものをわざわざ保存しておく理由が完全になくなりました。



現在も、大量のお砂糖を生産するためにさとうきびが大規模に栽培されていますが、ほとんどの人は、さとうきびを見る機会も手に取る機会もありません。


お砂糖には一定の関心があっても、さとうきびには関心の目がいかなくなるのも当然です。人は目に見えないもの、見たことがないものは存在しないも同然だから。

もし、さとうきびが日持ちするようになって、スーパーの棚に並んだとしたら、今年もさとうきびの季節が来たな、とカゴにいれて、おうちで恒例行事のごとくかじってみたり搾ってみたりするのかもしれません。

もっとさとうきびが身近な存在になっていたかもしれません。


でも、たとえさとうきびの姿でスーパーになんてなくても、さとうきびのいのちを削ってできたお砂糖というかたちで、確かにすぐそこに存在しています。陰でたくさんの食品を支えている姿は、十分誇らしいし、本当にありがたい恵みです。


いろいろな役目を担っているさとうきび。目に見えないからと存在を無視して感謝を怠ると、いつか本当にバチが当たりそうな気がします。


さとうきびには、感謝。