さとうきびの分身力、分かち合って共に成長していく

さとうきびには、分蘖(ぶんげつ、もしくはぶんけつ)と呼ばれる自分の分身をいくつも形成する成長過程があります。
分身をつくる理由は主に2つ。生存戦略と繁栄です。

1.生存戦略
損傷や病気、気象条件の変化などに対応するためのバックアップを持つことができます。一つがダメージを受けても、他の個体が成長を続けることで生存を確保します。また、株元も強くなり倒れにくくなります。

2.繁栄
光合成や栄養素の取り込みが増え、より多くのエネルギーを得ることができるため、絶対数の増加と繁栄に繋がります。

分身の仕組み

さとうきびは、発芽後、茎が一定の高さ(10㎝以上)に達すると、土中の茎の節から新芽を出し始めます。新芽も同じように成長し一茎となると、その茎からも同じようにまた新芽を出すことで、さらに茎数を増やしていきます。
こうして、爆発的な成長を遂げる前準備として、まずは複数の茎を持つ密集した株をかたちづくっておくのです。

分げつによる増殖は無性生殖。種子がなくても新たなる生命を作り出すことができるのが大きな特徴です。

自分の分身をせっせと増やし、それぞれがやがて独立した成長を遂げる。最初は親子だったかもしれない親茎と分身たち。わりと早い段階で生育差が埋まり、親子の区別がつかなくなります。


親茎のほうが一カ月以上も早く発芽しているのに、分身たちはあっという間に親茎と肩を並べ、最終的には共に3mもの大きさになるのだから、分身の力には本当に脱帽です。

しかし、できるだけたくさんの分身をつくれたとしても、分身した数だけ平等に大きくなっていくわけではありません。栄養を株単位で共有しながらも競争が繰り広げられ、勝ち残ったものだけがさらなる成長への切符を手にします。


中には途中までは頑張ったけれど、息絶えてしまった分身(無効分げつ)たちもいます。でも、不思議なことに来期の新芽につながることもあります。無駄じゃなかったりするわけです。それぞれが、それぞれの立場で全力で懸命に生きているのです。

さとうきびの分身ひとつとってもいろいろドラマはありますが、人間の立場としては、分身ができるさとうきびをちょっと羨ましく思ったりします。毎年分身が始まると、よしっ!今年も元気に始まったな、と嬉しく眺めながら…。

でも、自分が数人いてもやっぱり面倒だな、ひとりを懸命に生き抜こうって勝手に思い直す、分げつ期。
もしかしたら、さとうきびもほんとは分身なんかつくらないで伸び伸びとひとりで大きくなりたいと思っているかもしれません。


まとめ


さとうきびは成長の初期段階のうちに分身をできるだけたくさんつくっておくことで、3m級の次なる成長ステージへの大きなあしかがりとしています。
一方で、つくり手にとっては、分身がたくさんできると単純に収量が上がるという嬉しいご褒美となります。
ただし、分身をたくさんつくれたとしても、見た目に大きく育ってくれたとしても、上質なお砂糖とは簡単にむすびつかないところが、さとうきび栽培の難しさなのですが、この話はまた別の記事で。