Quality

マイノーブルシュガーの拠点でもある静岡県浜松市は、沖縄県にはかないませんが、年間を通して比較的温暖で日照時間も全国トップクラス。
さらに、成長の大きな足がかりとなる絶好のタイミングで梅雨を迎えます。この時期にしっかりと根を張り、葉っぱを増やし、分蘖を進めていくことで、高温の夏の伸長へと一気につながります。ただし、台風の襲来はさとうきびに直接のダメージを与えてしまうので、必要に応じて倒伏しないよう支柱をするなどできる限りのサポートをしています。


10月になると、空気が乾燥し昼夜の寒暖差も大きくなっていきます。この時期から12月にかけて、さとうきびは成長をゆるめ、糖分をじっくりと蓄えていきます。
この適度な寒暖差というのは、植物にとっては都合がよくなります。日中はまだ暖かいので積極的に光合成をして糖分をつくりますが、涼しい夜は代謝も低くなるため、つくられた糖分の消費が少なくて済むからです。

春の適度な暖かさ、恵みの梅雨、光合成を促進する夏の高温、乾燥と寒暖差が進み糖度が上がる秋。さとうきびは、四季というめまぐるしい移り変わりがある静岡県でも、環境に上手に適応し、健やかに生きていくことができるのです。

品種を選択するうえでいちばん大切なことは、栽培する環境に合っているかどうかです。

現在も、沖縄県や鹿児島県の各地域に適した品種の改良は積極的に進められていて、登録品種は30種以上に及びます。そのうち、本州向けの「黒海道」と呼ばれる品種があります。この品種は、一般的な品種よりも成長スピードが早く、霜が降りる前までに十分登熟するよう改良されています。


ほかの数種類の品種も試験栽培を行い加工してみた結果から、現在は黒海道をメインとした3種類を育んでいます。

品種によって生育スピードや分けつの量、茎の太さや直立性などそれぞれ特徴があります。加工する時の扱いやすさや、お砂糖にしたときの風味や色味も異なるので、どんな品種を使用するのかでお砂糖に個性が出ます。

静岡県でさとうきびを育む利点のひとつが、虫による害が比較的少なく済むことです。さとうきびの品質に直接影響を及ぼす虫がいますが、それでも全体の2~3%以内には抑えられています。必ず寒い冬が訪れるので、年中彼らが活発な環境下におかれないことも要因のひとつです。

雑草は悩ましい存在ですが、圃場内はひたすら手で抜き取っています。草はいったん生育を許してしまうとあっという間に手に負えなくなるので、早めに対処しています。

肥料は、基本的には植物性のぼかし肥料を冬にまとめて作成し、毎年配合を変えて様子を見ています。
土つくりと栄養は、バランスが全て。自然のバランスを人間が崩せば、どこかでそれがひずみとなって、かならず症状に現れます。だからこそ、自然の変化に絶えず敏感でいることが大切です。


化学肥料に関しては賛否両論ありますが、完全に悪いものだとは思っていません。ただ、できるだけ自然に近いものをバランスを考えて畑に還してあげる姿勢が、自然に敬意を払うことだと考えています。


私たちの畑は不思議と生態系が豊かです。観察しているとさまざまな生物がひっそりと共存していることがわかります。

全てはバランス。偏らない環境つくりが最も大切であり、同時に最もむずかしい永遠の課題でもあります。

haccpの考え方を取り入れた衛生管理に基づいて、製糖場所の管理を行っています。
お砂糖つくりにおいては、基本的に搾汁液を高温で長時間煮詰めるために生物的ハザードとなる原料由来の細菌類はある程度死滅します。

ただ、わたしたちのお砂糖は石灰を添加していないため、通常の黒糖よりも水分活性が高くなっています。
カビの発生を極力減らすため、製糖場所の湿度調整と換気、器具や作業台の洗浄とアルコール消毒は特に徹底しています。
また、製糖記録も残しておくことで、問題が発生した時の追求が容易にできる体制を整えています。

添加物の受け取り方はさまざまです。
黒糖に使われる石灰は、食品添加物のなかでは加工助剤に分類され、定義は以下のとおりです。

加工助剤
(定義)食品の加工の際に使用されるが、(1)完成前に除去されるもの、(2)その食品に通常含まれる成分に変えられ、その量を明らかに増加されるものではないもの、(3)食品に含まれる量が少なく、その成分による影響を食品に及ぼさないもの。

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/03/s0323-3e.html

黒糖つくりに石灰を入れることは、昔からの知恵で各地であたりまえに行われてきました。
石灰を使う目的の詳細は、別の記事であらためて伝えますが、確かに大切な役割を担っているのは間違いありません。


もし、本来の風味を損なわずにえぐみのない黒糖がつくれるのならば、そのメリットを享受し使用していたかもしれません。
あくまでも、わたしたちが石灰を使わない一番の目的は、さとうきび本来の風味を知ってもらうためです。

しかし、安心安全という観点からもう一度考えてみると、本当にこの石灰を使用することに問題はないのかをはっきり申し上げることができません。具体的な数値を示してこれは安心です、と伝えたところで心情的に受け入れられないこともあるからです。

要するに添加物の問題は、最終的には自分がどう受け取るかだと思います。

だとしたら、使わずに済むものは極力使わない、というスタンスでいることが大切なのではないでしょうか。それが、結果的に安心安全につながるのであれば、喜ばしいことだと考えています。

さとうきびの収穫期は、特にここ本州では短く、最低でも1ヶ月以内に全て収穫する必要があります。その点において、手作業による少量生産は最も効率が悪い手段です。

少量生産をしている理由は、単に最小限の人数で行っているから、ということもありますが、少量生産ならではのメリットも確かにあります。加工に限らず畑での作業もそうですが、機械は良くも悪くも大雑把です。ざっくりやりたいときは最適ですが、詰めの作業はどうしても手作業には及びません。


また、一度に大量に処理をしたり、規模を大きくするほど、きめ細やかさとは反比例します。それが積もり積もって、最終的には風味や品質の差となってかならず現れます。

手間暇と効率の悪さは、効率が重視される世の中においては非難されることなのかもしれません。でも、お砂糖はすでに大量生産されています。その一方で、どこまでも丁寧に、手間暇かけてつくられたマイノーブルシュガーのお砂糖が、品質の違いをはっきり示してくれる存在になり、さとうきびの価値がもっとあがるきっかけになってくれたら本望です

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