
いまやすっかり定番の甘味料となったメープルシロップ。本場のカナダやアメリカからたくさんのメーカーのシロップが販売され、グレードもさまざまです。
クセが少なく自然な甘さ、カエデの樹液をコトコト煮詰めて凝縮しただけのシンプルな加工——そんなイメージ、ありませんか?
でも実は、メープルシロップの製造現場では、消泡剤やろ過助剤といった加工助剤があたりまえに使われているのです。
特に商業生産においては、作業効率や品質の安定のためにこうした加工助剤が欠かせません。
加工助剤とは、以下の定義により、食品表示を省略できる食品添加物を指します。
加工助剤
厚生労働省URL
(定義)食品の加工の際に使用されるが、(1)完成前に除去されるもの、(2)その食品に通常含まれる成分に変えられ、その量を明らかに増加されるものではないもの、(3)食品に含まれる量が少なく、その成分による影響を食品に及ぼさないもの。
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/03/s0323-3e.html

わたしがこの事実を知ったのはつい最近のこと。
わたしたちの商品でもある「さとうきびシロップ」と比較していたときにある疑問がわき、英語で「メープルシロップ 消泡剤」と検索してみたのがきっかけでした。
もしかしたら…くらいの気持ちでしたが、実際のところ、メープルシロップ専用の消泡剤が普通に販売されていたので、正直驚いてしまいました。
こんなにも自然派のイメージが強いものにも使われているのかと。
とはいっても、実際に使われる消泡剤の量はメーカーや種類にもよりますが100リットルの樹液に対してほんの数滴、数グラムです。
でも、たとえ微量だとしても、「何かを加えている」事実には変わりはなく、「まったく何も加えていない」という事実とのあいだには、やっぱり大きな違いがあるように感じてしまいました。
そこで、なぜメープルシロップ作りに消泡剤が使われているのか、ひととおり調べてみました。

消泡剤が使われる理由
メープルシロップの製造では、煮詰め工程中に発生する気泡を抑える目的で消泡剤が用いられます。
メープル樹液は、純粋な水よりも気泡ができやすくつぶれにくい性質があります。さらに煮詰めが進むと粘性が増し沸点も上昇するため、時には激しい泡立ちを引き起こします。この気泡を放置すると鍋からの吹きこぼれによるロスや風味・品質の劣化の原因につながります。
それならば、火力を下げてコトコト煮詰めれば良いのですが、樹液の糖度はわずか2〜3%。メープルシロップの糖度66%にまで煮詰めるには相当時間とコストがかかってしまいます。これでは商業的なスケールでは現実的ではありません。
一昔前は、気泡を抑えるためにバターなどが用いられていました。脂肪分は水と混ざりにくく、気泡の膜に入り込んで表面張力を乱すことで、気泡を壊れやすくしてくれるからです。
現在では、より安価で安定した効果を発揮する合成消泡剤が使われ、商業生産ではもっぱら主流となっています。
ちなみに有機認証の製品においては、合成消泡剤の代わりに有機キャノーラ油や有機サフラワー油などが使われています。
とはいえ、その植物油自体も精製の過程で別の添加物が用いられているかもしれません。さかのぼるとキリがなくなってきます。

ろ過助剤の役割
もうひとつ、メープルシロップの製造で欠かせないのが「ろ過助剤」です。有機であろうとなかろうと、共通して食品用の珪藻土(けいそうど)が主に使用されています。
珪藻土は、微細な多孔質構造を持つため、シロップに含まれるシュガーサンド(煮詰めの過程で生じる結晶性の沈殿物)や、不純物、微粒子などを取り除く助けになります。透明感のある製品に仕上げるためには必須の工程とされます。
興味深いのは、カエデの樹液はもともと透明度が高いにもかかわらず、こうした工程が行われるという点。著しい品質の低下につながらないとしても、そういった可能性のあるものはできるだけ取り除いておきたい、見た目の美しさや透明度を重視したいのです。

以上のように、一見何も足していないような食品にさえこうした加工助剤が使われている。
だとすると、もはやほとんどの加工食品には何かしらの表示義務のない添加物が使われていると思っていた方がよいのかもしれません。
食品表示の原材料名をみて、それらしきものが記載されていないからといって、全く何も加えていないと信じ込むのはあまりにも早合点。そう心得ておけば、加工食品に対して過度な期待をせずにすみそうてす。変な話ですけれど。
さとうきびを加工するつくり手の立場から思うこと
わたしは、メープルシロップではなく、さとうきびシロップやさとうきびクリームを作っている立場ですが、加工助剤のようなものを使えたらどんなに良いだろうと思うときは確かにあります。それは作業効率を上げるためというよりも、日持ち、見た目、質感などの品質のため。
特に、見た目や質感の重要性は大きいと感じています。普段あたりまえに思っているきれいな見た目や口あたりの良い食品には、確かな理由があるのだと、つくり手の立場になって初めて気づきました。そのまま加工すると、いろいろな不都合が出てくるのだと…。
消泡剤やろ過助剤を使う理由も、そう考えると十分理解できます。
それでも、極端な話かもしれませんが、何かを一滴でも添加したら、さとうきびだけで作りましたと胸を張っていえない自分がいる。
ですので、いまのところわたしたちの商品にはこうした加工助剤を含む添加物は一切使用していません。
知っておくことは大事

今回、メープルシロップでさえも、と感じたことで、このご時世、もはやどうしたって避けようがないのだなという諦めと、仕方がない面も少しはあるのかなという許容が入り混じった、なんとも複雑な心持ちでいます。
一見、何も加えていないように見える食品でさえ、目に見えないところで何かしら加えて調整されている。そしてそれらは食品表示欄には記載されないからわかりようもない。これらを前提として、どの程度許容するのか、結局は自分で考え、判断するしかないのかもしれません。
ただ、誤解のないように言っておくと、メープルシロップを否定したいわけでは決してありません。私自身、これからもありがたくいただくつもりですし、使っているからといって「ダメ」と言いたいわけでもありません。加工食品の現実を知るうえで、メープルシロップはとてもよい例だと思ったので、あくまでひとつの事実として共有したかったのです。
いずれにしても、何が使われているか知っておくのはとても大事なこと。そういった意味でメープルシロップ作りの内情が知れて、またひとつ勉強になりました。
参考URL https://saphoundsyrup.com/blogs/kettletender/organic-or-not