精製度の低いお砂糖のほうが、精製糖よりも高価な理由

※ここでの精製糖とは、黒糖以外の全ての分蜜糖を指しています。

以前お見せした工程表からすると、精製糖の方が加工が複雑で、手間がかかっているように見えるかもしれません。

確かに、巨大な装置を使い、ろ過と濃縮を何度も繰り返して不純物をそぎおとし、純粋な結晶へと磨き上げるには、巨額の設備投資と膨大なコストがかかります。
でも、精製糖は「ショ糖以外は不要」という一律のルールで作れる工業製品です。不純物を徹底的に排除するプロセスは、原料(さとうきび)ごとの微細な違いにはほとんど左右されません。

一度システムを構築してしまえば、オートメーション化による圧倒的なスケールメリットを享受できます。製造管理の難易度を下げ、安価で安定した供給を可能にするのが、工業化最大の利点なのです。

一方で、精製度が低いお砂糖は、いわば「農産品」。

さとうきびは、加工を前提とした工芸作物に分類されてはいますが、環境によって生育差が生じる植物であり、見た目は同じでも中身の成分比は個々異なります。精製度の低い蜜を含んだお砂糖づくりにおいては、この個体差を見極めながら、風味をできるだけこわさないように調整するための高度な「さじ加減」が求められます。


すべてを捨てる「引き算」の精製糖に対し、さとうきび本来の素材の良さをどう残すかをロットごとに見極める技術。
この、機械では決して代行できないつくり手の感覚と経験値が、そのままコストへと反映されています。

流通面でも大きな違いがあります。


精製糖と比較して、精製度の低い黒糖のようなお砂糖は、特定の用途や嗜好といった需要に向けた少量生産になりがちです。また、輸入された保存のきく粗糖(原料糖)のような半製品から作るのではなく、収穫直後の鮮度が命のさとうきびから直接作る必要があります。価格の安い輸入品に頼ることができないのです。


さらに、純度100%に近づくほど品質は安定しますが、栄養や水分を含んだお砂糖は、酸化や湿気にも弱く、繊細な保管を必要とする点も、価格に影響を及ぼしています。

完全に工業化されたお砂糖の世界では、自然に近い状態を保とうとするほど、皮肉にも手間と労力が膨らみ、価格を押し上げてしまうというパラドックスが生じています。効率と使い勝手の良さを極めた工業製品と、素材を活かす嗜好品。この両者を同じものさしで比べること自体に、無理があるのかもしれません。

安くて安定した精製糖を選ぶのも、手間をかけて守られた豊かな風味を選ぶのも、どちらが良い悪いではありません。ただ、その価格の裏側にある「理由」を知ることで、今日選ぶお砂糖が、少し違った価値を持って見えてくるのではないでしょうか。