黒蜜、黒糖蜜、糖蜜、さとうきび蜜の違い

目次

はじめに

黒蜜、黒糖蜜、黒糖シロップ、糖蜜、さとうきび蜜、さとうきびシロップ。黒っぽい蜜にはいろいろな商品名があります。
同じなのか、違いがあるのかさえわかりにくいです。

そこで今回は、これらが具体的にどのような蜜でどのような違いがあるのかを、つくり手の立場でできるだけわかりやすくお伝えしていきます。

1. 商品名と分類

まず、よくある商品名とその分類は以下となります。

1. さとうきび蜜、さとうきびシロップ
2. 黒糖蜜、黒糖シロップ
3. 黒蜜、黒みつ
4. 糖蜜、糖みつ、モラセス 

2. 商品名による大まかな違い

2-1. さとうきび蜜、さとうきびシロップ

主にさとうきびの搾汁液を煮詰めて飽和に近い状態までそのまま濃縮した蜜です。いわゆる黒糖になる前の段階で煮詰めをやめた蜜。メープルシロップをイメージするとわかりやすいかもしれません。

色味もメープルシロップと同じか少し暗めの明るさのものが多いです。ただし、「さとうきび」を使った商品名であってもこのような製法ではない商品も一部存在します。

2-2. 黒糖蜜、黒糖みつ、黒糖シロップ

主に黒糖を水で調整して煮詰めなおした蜜です。純粋に黒糖だけで調整しているものもあれば、それ以外の材料を混ぜて調整しているものもあります。
黒糖100%でもそうではなくても黒糖を使用していれば黒糖蜜です。

2-3. 黒蜜、黒みつ

いわゆる黒い蜜の総称です。黒くて甘い砂糖の蜜であればすべて黒蜜です。
黒糖が入っていれば2-2.のような黒糖蜜という商品名が一般的ではありますが、黒糖が入っていてもいなくても黒蜜といえます。

ちなみに、黒糖が入っていなくても黒い蜜はつくれます。

2-4. 糖蜜、糖みつ、モラセス

さとうきびの搾汁液を煮詰めて濃縮したのちに、遠心分離機で蜜とショ糖に強制的に振り分けることで得られる蜜です。

振り分けるのはショ糖の結晶を取り出すためで、取り出した後に残るこの蜜を通称、糖蜜(廃糖蜜)、英語ではモラセスと呼びます。甘いショ糖と振り分けられているので甘味はあまり感じません。色味も漆黒のように黒く、艶があってドロッとしています。

薄茶色のお砂糖の調整のために再利用されたり、発酵させることでさまざまな商品に生まれ変わります。

ただし、商品名が「糖蜜」となっていても甘い黒蜜だったりする商品もまれにあります。


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以上であげた説明は、あくまでも一般的な違いであり、メーカーによってはこのかぎりではありません。商品名に関しては規定がほぼありませんので、商品名だけで違いを正確に判断するのはやはり難しいです。

3. 原材料表示からわかる5つの違い

商品名だけで判断するのは難しくても、もう少し簡単に違いがわかる方法があります。

以下のように原材料表示を確認してみてください。※メーカー側が正しい表記をしているのが前提となります。

3-1. 原材料表示例 ❶

原料糖(粗糖)、糖蜜、黒糖、加工黒糖、水飴、砂糖など

このように複数表示されていて、そのなかに黒糖の記載がある場合、黒糖を含んだいわゆる黒糖風の蜜です。糖蜜や水飴、砂糖などは必ずしも入っているわけではありません。


黒糖がどのくらい含まれているかは、原材料表示の順番を見てください。黒糖が何番目に記載されているのかで黒糖メインでつくられた蜜なのかそうでない蜜なのかがわかります。


どのように組み合わせるのかは、メーカーによって異なります。

3-2. 原材料表示例 ❷

原料糖(粗糖)、糖蜜、水飴、砂糖など

このように複数表示されていて、黒糖の記載がない場合、黒糖が入っていない黒い蜜です。黒い色味は、黒糖の色ではなく2-4.の糖蜜の色やカラメルによるものです。

3-3. 原材料表示例 ❸

黒糖(〇〇産)

このように表示されていたら、〇〇産の黒糖と水だけでつくられた純粋な黒糖蜜です。いちばんシンプルでわかりやすいです。


※加工黒糖と記載されているものもありますが、黒糖と加工黒糖は違います。加工黒糖は黒糖が全体量のうち5%以上含まれているお砂糖の総称です。

3-4. 原材料表示例 ❹

さとうきび(〇〇産)

このように記載されていたら、3つの可能性があります。


まずは、2-1.で説明したさとうきびの搾汁液をそのまま濃縮した蜜。黒糖をつくる前の状態まで煮詰めたものです。生産量自体が非常に少ないため、大変貴重な蜜です。

次に、そのまま濃縮して一度黒糖の状態にした後で調整した蜜。通常は3-3.のように「黒糖(○○産)」と記載されていますが、さとうきびから一貫して生産しているつくり手はこのような表示をしている場合もあります。

最後に、2-4.で説明した糖蜜と呼ばれる蜜。これもさとうきびから一貫して生産しているつくり手はこのような表示をしている場合もあります。


さとうきびの搾汁液をそのまま濃縮したものか、搾汁液からつくった黒糖の状態を調整したものか、それとも濃縮したあとで蜜だけを抜き出した糖蜜かは、商品名と商品説明を見れば見分けがつくものが多いです。


あとは色味も一つの目安になります。糖蜜は漆黒のような艶やかな黒色。黒糖からつくった蜜はもう少しくすんだ薄めの黒色。搾汁液をそのまま煮詰めてできた蜜はメープルシロップのような明るい色味で黒くありません。

いずれにしてもさとうきびの搾汁液からつくられた蜜であり、さとうきびをいちから育てているつくり手による商品の場合が多いです。

3-5. 原材料表示例 ❺

糖蜜(○○産)

このように記載されていたら、2-4.で説明した遠心分離機で振り分けられた蜜(糖蜜、モラセス)のことです。

※和三盆は竹糖という在来種を使っているため一般的な黒糖とは区別されていますが、和三盆独自の製造過程の研ぎにより抜き出した蜜も糖蜜という商品名で販売されています。


※原材料がさとうきび以外の糖蜜も存在します。この場合は原材料にかならず果実名や作物の記載があります。一般的には濃縮されたものを指すことが多いです。



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以上が原材料表示による見分けかたとなります。

原材料表示は、何からつくられているのか、何を多く使用しているのかどんな状態からつくられているのか、どんな状態で仕入れてつくられているのかなどを知ることができます。
違いに迷ったときは、一度確認することをおすすめします。

4. 風味の違い

風味の感じ方は主観によるところが大きいので、ここではあくまでも一般的な傾向をおつたえしておきます。

100%純粋な黒糖を使用した黒糖蜜は、イメージどおり黒糖らしいコクのある風味です。

原料糖や糖蜜などで調整された黒蜜は、しっかり甘さがのったパンチのある甘味です。

遠心分離機で振り分けられた糖蜜(モラセス)は、甘さはあまり感じられず黒糖よりも独特の風味を強く感じます。

さとうきびの搾汁液をそのまま煮詰めて濃縮した蜜は、クセもひかえめで甘さもしつこくなく、すっとぬける風味です。

5. 価値の違い

原材料による違いがおおよそわかったところで、それぞれの価値の違いまではなかなかわかりにくいかもしれません。

価値は、価格にも反映されます。
生産量やコスト、安定性、希少性に加え、需要と供給のバランスで決まります。

さとうきび蜜・さとうきびシロップ

さとうきびの搾汁液をそのまま煮詰めてつくられるさとうきび蜜は、生産しているつくり手自体が少ないため、生産量も少ないです。

また、さとうきびの生育環境などによる個体差の影響も受けやすく、品質管理や安定性においても扱いが難しいことも生産量が少ない一因になっています。

仕入れてつくることもできる黒糖蜜とは違い、さとうきびを育てていないとつくることのできない蜜ということもあります。

もっとも、このタイプの蜜の存在はあまり知られていませんが、蜜の中でもさとうきび本来の風味を一番純粋に感じられます

個人的にはもっと多くの人に知ってもらいたい貴重な蜜です。

黒糖100%の黒糖蜜・黒糖シロップ

黒糖100%の黒糖蜜は、黒糖をつくっていたり黒糖を仕入れることができればさとうきび蜜よりは安定的につくることができます。

特定の産地によっては収量や生産量も限られるためその分価値は高くなりますが、産地にこだわらなければ状況に応じて複数の産地をブレンドしてつくることもできるので、比較的生産量も確保できます。

そうはいっても、黒糖は自然のさとうきびからつくられるお砂糖。さとうきびの品質の影響を受けやすいため、安定的につくることが難しいお砂糖です。そのため、黒糖そのものをつくっているつくり手がつくる黒糖蜜ほど、価値は高くなります

ちなみに、黒糖蜜は市販の黒糖さえ手に入れば、家庭でも簡単につくることができます。水の量を調整しながらアクをとり、お好みの濃さまで煮詰めなおしたら完成です。

その他の黒蜜

黒糖以外の原材料を多くふくめた黒糖蜜や、黒糖を使わない原材料でつくられる黒蜜は、原材料自体が安価で大量に流通しているため、生産量も流通量も最も多いのが特徴です。ブレンドすることでより安定的につくることもできます。

比較的中規模以上のメーカーで生産されていることが多いです。


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先程も説明したように、小規模のつくり手はさとうきびから一貫して生産しているところがほとんどで、生産量も多くはありません。
毎年の天候や環境の違いなどによる影響も直接受けやすいので、常に安定した生産ができるわけでもありません。毎年一回限りの収穫です。

手塩にかけて育んださとうきびからつくる商品へのこだわりや想いも強いですし、手作業で丁寧につくればつくるほど、どうしても手間やコストがかかってしまいます。

蜜による価値の違いは、手間をかけてつくられた手づくりの農産品なのか、安価なコストや材料で大量につくられた工業製品なのかの違いともいえます。

少量生産と大量生産とでは求める価値が異なります。
同じ商品名だったとしても、中身にはこれだけの品質や価値の差があるのです。

6. 保存方法

蜜は固形や粉末のお砂糖よりも水分が多いため、開封前は冷暗所、開封後は冷蔵での保存がマストです。賞味期限が設定されているものが一般的ですので、できるだけお早めにお召し上がりください。
保存状態によってはカビがはえてしまうこともあるため、取り扱いには十分注意が必要です。

まとめ

黒蜜、黒糖蜜、糖蜜、さとうきび蜜など、さまざまな名称で親しまれている蜜の違い、おわかりいただけましたか。
製法や原材料の違いで価値もそれぞれ。さまざまな味わいが楽しめます。

商品名だけで違いを判断するのは難しいので、選ぶ際には原材料表示をチェックし、どのタイプの蜜なのか少しでも理解したうえでお買い求めください。

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