黒糖って一体どんなお砂糖なの?つくり手の立場で細かく解説

黒糖といえば、沖縄や鹿児島生まれの色の濃いお砂糖をイメージするかもしれません。その深いコクと独特の風味から、黒糖を使った和菓子を思い浮かべるかもしれません。

実は、黒糖と一口に言っても、つくり手によって千差万別の風味があり、その品質もピンキリなのはあまり知られていません。そこで今回は、黒糖ってそもそもどんな特徴があって、いったい何が風味や品質に影響を与えているのかについて、詳しく見ていきたいと思います。

目次

1.黒糖とは

黒糖とは、さとうきびの搾汁液を煮詰めたあとでそのまま冷やし固めた、主に固形や粉末状の含蜜糖を指します。 
意外かもしれませんが、沖縄だけではなく本州の温暖な地域でもつくられています。

1-1.製法

さとうきびの搾汁液を高温で煮詰め、十分濃縮してから冷やすことで、溶けきれなくなった主成分のショ糖が結晶として晶出されます。蜜の中でこの結晶が散りばめられた状態でそのまま冷やされるので、蜜ごと固まります。

1-2.原材料表示

商品裏側に表示されている原材料名の欄には、さとうきび(〇〇産)とだけ表示されます。加工助剤の石灰(正式名称:消石灰または水酸化カルシウム)などは特に表示の義務はありません。石灰を使っていてもいなくても、上記のように表示されます。

1-3.精製度

全くの未精製というわけではありません。
一般的な黒糖は、品質の安定のために搾汁液に石灰を添加して中和し、不純物をある程度除去しています。


ちなみに、石灰を添加せずそのまま煮詰めて作る、いわゆる石灰不使用の黒糖もごくわずかですが存在します。この場合、精製度はさらに低くなります。

1-4.他のお砂糖との違い

黒糖以外の全てのお砂糖は、搾汁液を濃縮したあとで全く別の工程をたどります。

黒糖はそのまま冷やし固めますが、その他のお砂糖は、濃縮したあと、遠心分離機を使って強制的にショ糖と蜜に振り分けられます。振り分けられたものはそれぞれ原料糖(粗糖)、糖蜜と呼ばれ、このうちの原料糖(粗糖)は、黒糖以外の全てのお砂糖のベースとなります。


つまり、遠心分離機で一回も振り分けられていないお砂糖が黒糖です。そういった意味で、黒糖は、お砂糖のなかでもっとも自然のさとうきびに近いお砂糖
であり、蜜のコクと独特の旨味もぎゅっとつまっています。

1-5.世界での名称

黒糖(kokuto)という名称は日本での呼び名です。日本以外では、地域によってさまざまな名称で親しまれています。

主に南アジアではjaggery(ジャガリー)、フィリピンなどではmuscavado(マスカバド)、メキシコなどではpiloncillo、コロンビアなどではpanela(パネラ)、ブラジルではrapadura (ラパドゥラ)、インドではgurです。ちなみに、jaggeryはさとうきびではなく、ヤシからつくられることもあります。また色味もかなり明るい琥珀色をしています。

1-6.pH

pHというのは酸性の強さを示す用語です。さとうきびの搾汁液は弱酸性(pH4.5〜5.5)ですが、石灰を入れた黒糖は中性もしくは弱アルカリ性(pH7〜)になります。pHが変わると液体の組成は変わります。

2.加工黒糖とは

1.でお話しした黒糖、実は製品としてなかなか安定しにくいという欠点があります。なぜかというと、原材料のさとうきびの搾汁液がとても繊細で不安定だから。このため、全く同じ仕上がりにすることが非常に難しいのです。
そこで、「加工黒糖」の出番となりました。

2-1.製法

加工黒糖とは、蜜を振り分けたことで、より安定した性質になった原料糖(粗糖)と糖蜜などをベースに、ホンモノの黒糖をいくらか加えて再調整したお砂糖です。全体のうち黒糖が5%以上入っていれば、加工黒糖と表記することができます。

黒糖5%以上というルールさえ守れば、あとはメーカー側が自由に配合や割合を決めて黒糖っぽく仕上げています。

2-2.原材料表示

原料糖(粗糖)、糖蜜、さとうきび、黒糖など複数あるのが特徴。

2-3.黒糖のような見た目と風味

大量に安定した生産ができるため、食品加工の分野ではとても重宝されています。市販されているいわゆる黒糖味は、純粋な黒糖を使っている商品ももちろんありますが、その多くはこのような調整した加工黒糖を使用していたり、糖蜜、カラメルなどで色味や風味を足したりしています。

加工黒糖は、純粋な100%の黒糖ではなく、あくまでも混ざりもののお砂糖なのです。

3.つくり手による黒糖の違い

3-1.さとうきびの育てかた

黒糖は、さとうきびからつくられます。さとうきびを、どのような環境でどのように育てるのかで黒糖の品質も当然変わってきます。天候や外部の自然環境、土の基本的な性質などは変えられませんが、どのように育てるのかは、ある程度はつくり手に委ねられます。

大きなくくりでいえば、どんな品種を選んでいるのか、農薬を使うのか使わないか、肥料を与えるのか与えないのか、与えるならどんな肥料を与えるのか、どのくらいの量をどのタイミングで与えているのか、水やりの頻度はどのくらいなのか、といったところでしょうか。

3-2.石灰の有無と量

先程も少しふれましたが、通常の黒糖には石灰が添加されています。この石灰は強アルカリ性なので、ごくわずかな添加でも十分効力を発揮するのですが、添加量が多くなるほど苦味が増し、より固い仕上がりになってしまいます。一番わかりやすいのが、この石灰を入れる量による風味の違いでしょうか。

一方、石灰不使用の黒糖は弱酸性のままです。扱いが大変難しいので、なかなかお目にかかる機会は少ないと思います。

3-3.煮詰めの方法や煮詰め温度

一度にどのくらいの量をどのような熱源と火力で煮詰めるのか、どんな器具を使用するのか、取り出す時の温度を何度にするのか、どのように冷却するのかなどによっても色や風味はずいぶんと変わります。基本的には、温度が高いほど色味は濃く、香ばしさや固さが増します。

上記以外にも細かい違いはたくさんあります。
色々な要素が組み合わさって、つくり手それぞれ風味や色味、食感の黒糖につながっていくのです

4.成分・栄養価

黒糖は栄養価が高いといわれていますが、あくまでも他のお砂糖と比較した場合の話です。特に白砂糖は純度100%に近いので、それと比べるのはさすがにちょっと誤解を生むような気もしています。

それでも、さとうきびに含まれるミネラルなどの微量成分は、さとうきびならではの構成で、いわゆる不純物の中に確かに存在しています。石灰を入れずに不純物を残したものはそのまま残りますが、たとえ石灰で精製した黒糖であってもすべて除去できているわけではありません。これらの微量要素は、黒糖の独特の風味に大いに貢献しています。


ミネラル含有量の細かな数値に関しては、以下をご覧下さい。100g当たり0.01mg以上あるものだけをピックアップしてみました。日本食品標準成分表(八訂)増補2023年で公表されているデータです。

スクロールできます
成分ナトリウムカリウムカルシウムマグネ
シウム
リン亜鉛ビタミンB1ビタミンB2ナイアシンビタミンB6パント
テン酸
mg27110024031314.70.50.240.050.070.80.721.39
日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 (数値はmg/100g)

※これらは、あくまでも参考の基準であって、全ての黒糖にあてはまるわけではありません。

4.黒糖の選びかた

量販店に置いてあるような一般的な袋詰めの黒糖は、主に工場で大量生産されたものです。黒糖か加工黒糖かは、裏面の原材料名を確認してください。また、パッケージに〇〇産とかいてあれば、特定の地域でつくられたさとうきびを使用しています。国産だから安心安全だという盲目的な過信はよくありませんが、気になる方にはひとつの判断基準になります。

一方、小規模のつくり手ですと、ほぼ地元産です。

沖縄や鹿児島以外でもでつくられている貴重な黒糖も是非チェックしてみてください。主に一部の小売店やECサイトで販売されているので、気になる黒糖があればいろいろ取り寄せて違いをたのしむことをおすすめします。こだわりのポイントがわかるので、つくり手のホームページを見ることも一助になるかと思います。

個人的にはあまりに苦味が強すぎたり固すぎる黒糖はおすすめしません。

また、さとうきびの旬は、本州では12月、鹿児島の一部や沖縄では1月~3月ごろとなります。旬の黒糖を味わいたい場合は、冬がおすすめです。

5.黒糖の保存方法

一般的な黒糖は賞味期限の記載の義務はありません。それでも、白砂糖などと比較すると蜜が残っている分、他のお砂糖よりは早めに使用したほうがよいです。

石灰不使用の黒糖は、基本的に冷凍もしくは冷蔵保存がベスト。熟成がゆるやかに進むのでそれを楽しむのも良いですが、カビの発生だけは十分注意が必要です。取り出す時は、口に入れたスプーンや汚れた手を使わないようにしてください。開封後もできるだけ長持ちできるかどうかは、そういった心がけが大切です。

6.まとめ

黒糖は、さとうきびの搾汁液を煮詰めて冷やし固めたお砂糖ですが、他のお砂糖と違い、つくり手による違いがしっかりと反映される繊細で味わい深い含蜜糖です。

また、コーヒーやチョコレート、ワインやはちみつなどに品質の違いがあるように、黒糖にも、品質の違いが確かにあります。

さとうきびがどのように栽培されているのか、黒糖がどのようにつくられているのかを知ったうえで味わってみると、違いがよりはっきりとみえてくるはず。

さとうきびの成分がたくさん含まれた黒糖だからこそ、まずは上質な黒糖を選ぶことが大切です。そのうえで、是非あなた好みの黒糖を見つけてみてください。

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